2008年09月23日

伊織と千早と蒼い鳥5-2

「あーむかつく! なんでアイツが服つくってもらえるのよ!」
「デザイナーが千早のこと、よっぽど気に入ったんだろうなぁ」
「あんなはれぼったい奥二重のぶっきらぼうのどこが良いってのよ」
「エキゾチックな感じが良かったんだろうなぁ」
「なによ! アンタ、アイツの肩を持つわけ?」
「そういう訳じゃないけどさ」
「アンタもなにか特別レッスン用意なさいよ!」
「そんなホイホイ用意できないよ」
「全く! アンタ本ッ当に使えないわね!」

伊織の怒りは収まらない。まさか自分のまいた種が、こんな事になるとは予想つくはずもない。千早には「歌」では譲った伊織である。だがそれさえも認めたくはない事実だったろうに、こんどは自分の縄張りである「ヴィジュアル」で千早に『負けた』のだ。現実として伊織は千早と競っていた訳じゃないが、彼女の性格を考えればそう感じているに違いない。
そんな彼女のやり場のない怒りに身をさらすのも、プロデューサーたる俺の役目だと悟ったのは最近のことだ。とりあえずそのまま水瀬家に直行するのは避け、俺の行きつけの古びたレストランに立ち寄った。伊織は千早のプロデューサーとして最高の仕事をしてしまった。彼女が本当のプロシューサーであればうまい酒が飲めるに違いなかったが、今彼女の飲んでいるオレンジジュースは苦いかもしれない。

「じゃあ、これからレッスンよ。さっさと飲み終えなさいよ」
「焦ってもしょうがないだろ。歌のレッスンは地道な積み重ねだよ」
「そんな暢気なこといってたら、いつになってもスーパーアイドルになんかなれないわよ!」
「どうしても、これからか?」
「ええ、これからといったらこれからよ」
「よし、じゃあ『今』からだ」
「へ?」

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posted by tlo at 00:18| ○○の仕事風

2008年09月22日

伊織と千早と蒼い鳥5-1

南青山の一角にそのビルはあった。総ガラス張りという目立った外観は、海外の有名ブランドのブティックであることを考えれば驚くに当たらない。閉店の時間は過ぎているはずなのに、店内には多くの客の姿があった。だれもかれも着飾ってまるでパーティー……いや、これはパーティーなのだ。
名目はそのブランドが先のパリコレで発表した服の国内発表会で、お得意様だけを招待したクローズドのものらしい。だがそのブランドが超が付くほどの有名かつ高級ブランドであるが為に、招かれた客はいわゆる「セレブ」ばかり。結果として、ここは絵に描いたような「上流階級の社交場」となっている。
「なあ、伊織」
「なあに?」
「なんで俺がここにいるんだろう」
「しょうがないでしょう? 他にエスコートしてくれる人がいなかったんだから」
そんな疑問がついてでるほどに、俺の存在は場違いだった。『面白いものを見せてあげるから、ついてきなさい』と伊織に言われてほいほいついていけば、くたびれたスーツを着替えさせられ、伊織のエスコート役に任ぜられている。シンデレラだってもうすこし心の準備をする余裕があったはずだ。
「なによ。不満だって言うの?」
伊織の眉がつり上がる。お嬢様の御機嫌はお斜めにあそばされたご様子だ。
「光栄だよ。伊織」
家の人間は誰も忙しいというのは本当らしい。それでも他に付き添いがいないという事は無いはずで、上流階級の習慣は知らないが新堂さんでも良かったはずだ。そこに俺を選んだということは…まあそれなりに頼られてはいるんだろう。
「でも次は『お父様の名代』じゃなくて、スーパーアイドルのプロデューサーとして紹介して欲しいな」
「そう思うんだったら、私のためにきりきり働きなさい」
「ところで、面白い事ってのはファッションショーのことか?」
今度は伊織の口元がつり上がる。にひひっと笑うこの表情を見せるとき、伊織は大抵ろくでもないことを考えている。
「このファッションショーにね、千早がでるのよ」
「え!?」
「驚くこと無いでしょう? アイツがモデルはじめたって、アンタも知ってるじゃない」
モデルのステージは「見られる」ことが全てで、今の千早のステージとは正反対だ。表現力を磨く習い事は別に「即効性」のあるレッスンを始めたと聞いてはいた。
「でもまだ半月も経ってないだろう? それでいきなりデビューってのは…」
「だって私がここに紹介したんだもの、こんな娘がいるわよーって」
「なあ伊織…」
「なによ」
「家が貧しい女の子がな、クラスメートのお金持ちのお坊ちゃんに誕生日パーティーに誘われたんだ」
「なんの話をしているのよ」
「何を着ていけばいいか分からないその子はな、クラスメートのお嬢様に何を着ていけばいいか聞くんだ。するとその子は『カジュアルな服でいいのよ』って答えるんだよな」
「だから何の話を…」
「で、その子が話を真に受けて普段の服を着ていくと、周りは着飾った客ばかり。で、そのお嬢様は言うわけだ。『あら、カジュアルな服っていうのはフォーマルじゃないって意味だったのに、貴方分からなかったの?』って。つまり最初からその子を嘲笑うために……」
「……そのお嬢様が私ってこと?」
「いや、別に、何となくそんなアニメがあったような気がしたなーって……」
「バカなこといってんじゃないわよ。ほら、始まるわ」

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posted by tlo at 19:00| ○○の仕事風

2008年08月25日

伊織と千早と蒼い鳥4

「止めてください」
「なんで止めるのよ、千早」
「伊織、そこブレス入れないで」
「…わかったわ」


「止めてください」
「今度はなによ」
「声量が足りないわ」
「息が続かないわよ」
「そこは音響でなんとかするよ」
「まって」
「どうした?」
「ぎりぎりまでやってみる」


「お疲れ様」
後部座席に倒れ込むように座った伊織から返事はなかった。無理もない。追加レッスンに次ぐ追加レッスンを重ねている。夜も更けて、水瀬家へ帰路は郊外へ向かう車で渋滞気味だった。
「ねえ」
3回目の信号待で、伊織がようやく口を開く。
「なんだい」
「そろそろ最高のステージを作る方法っての、教えなさいよ」
実は伊織にはまだそれを教えていない。伊織はHowtoを教えれば飲み込んでしまうだろうが、要領のいい彼女はそれ以上を追求しないだろう。今回はHowtoの裏にあるWhyに気づいて欲しかった。逆にそれに気づかなければ、この方法に納得すまい。
「千早の事、どう思う?」
「生真面目で不器用で…むかつくわね」
「いやそうじゃなくって…言い方を変えよう」
信号が変わり車が流れ出す。俺もその流れに車を乗せた。
「千早のステージをどう思う?」
伊織はしばし考えて、答えた。

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posted by tlo at 18:00| ○○の仕事風

2008年08月23日

伊織と千早と蒼い鳥3

#俺設定全開


平日の昼前だというのに、フィットネスクラブのプールには結構の客がいる。俺と同じぐらいの歳の男もいたが、やはりほとんどが女性のそれもすこしお年を召した方が多い。別に目の保養に来た訳じゃないし、人妻熟女の熱い視線を感じないわけではないが俺たちは仕事できているのである。
「プロデューサー、1000m終わりました」
「え?! もう終わったの?」
千早は基礎トレーニングに水泳を取り入れている。以前はジョギングをしていたそうだが、彼女のプロデューサーが提案したという。
『体に負担をかけずに負荷をかけられますし、肺活量も増します。なにより街の汚れた空気を吸わなくて済みますから』
千早の説明はプロデューサーから受けたものなのだろう。彼女はこのトレーニングを気に入っているという。
「はい。漫然と泳ぐのではなく、自分なりにタイムを課しているので」
「まだ時間余っているけど」
「次のトレーニングに移りたいのですが」
「だ、そうだ。おーい伊織」
伊織はコースロープにつかまりぐったりしていた。最初の25mは千早と併走していたのだけれど、1回目のターンをすぎると早々に差を開けられてしまっていた。もっとも、これは競泳じゃないのだからムキになる必要は無い筈だけれど。
「大丈夫か!? 伊織!」
「……聞こえてるわ……大丈夫よ」
「伊織、大丈夫?」
「……ねえ千早、アンタいつもこんな事してるの?」
「ええ。歌唱力の土台は体力よ」
「……そう」


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posted by tlo at 14:42| ○○の仕事風

2008年08月18日

伊織と千早と蒼い鳥2

「何で私のパートが少ないのよ!」
「何故水瀬さんのパートがあるんですか? 蒼い鳥は私の歌です」
案の定、パート割りに不満の声が上がる。プロデューサー二人は顔を見合わせ溜息をつく。個別レッスンは順調に進んでいた。が、今回はデュオだからどうしても合わせ稽古は必要になる。どうにかこうにか二人をなだめすかして、このパート割りで納得させて頃には外はもう暗くなっていた。
「ねえ、アンタ」
「なんだい」
ミーティングが終わり、二人きりの会議室。案の定、伊織は不満げに声をかけてきた。千早は理解すれば納得できる娘だけど、伊織は納得できなければ理解しようともしない。パート割り案をのんだのは、社長に「仕事」だと申し渡された事が大きい。
「パート割り、不満か?」
「あったり前じゃない! 私のソロほとんど無いのに、アイツはソロがBメロ全部とかあるのよ」
「でもサビはデュオだろ」
「デュオだから当然でしょ!? というか、アンタ今からサビを私によこすようにゴネてきなさいよ」
「……なあ、伊織」
「なによ。無理だって言うの?」
「いや、これを見てくれ」
俺は一枚のディスクをプレーヤーにかけた。

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posted by tlo at 22:44| ○○の仕事風

2008年08月11日

伊織と千早と蒼い鳥1

#時なんとかP風のコラボ用SS。低ランク時の事件と思いねえ

「大人びていても、彼女たちは幼い。だからこそ、君達にはしっかりしてもらわなければならない。わかるだろう?」
「……」
「……」
仕事先のTV局で掴み合いを演じた二人のプロデューサーが社長の訓示を受けている。一人は俺、一人は千早担当のPだ。事の発端は「千早が伊織を突き飛ばした事」。もっともそれは俺の言い分で、彼に言わせれば「伊織が千早に掴みかかった事」となる。そもそもの発端を探ろうとはしたのだが、互いが担当のアイドルをかばえば相手を責める事になる。質問が詰問になり言い争いになるのに時間は要らなかった。掴み合いになったのは――その日が暑かったという事にしておこう。そういえばTV局のエアコンの効きも悪かった気がする。
真相は楽屋で二人っきりだった当事者にしか分からず、その二人、伊織と千早は別室で小鳥さんに「事情聴取」を受けている。

「失礼します」
小鳥さんに付き添われて、伊織と千早が社長室に入ってきた。神妙な顔をしているかと思えば、二人とも不満げな顔を隠そうともしない。プロデューサーは二人、溜息をつく。
「ごめなさい」
「申し訳ありませんでした」
「プロデューサーには謝ったかね?」
社長に見据えられた二人はさすがに気まずい顔になって、俺たちに頭を下げた。

「じゃあ、伊織ちゃん千早ちゃん。みんなに話して」
「私……如月さんに注意したんです。私が司会の方とトークしてる間、如月さんは、その…仏頂面でよそ向いてました」
小鳥さんに促されて口を開いたのは伊織だった。確かに伊織の言うとおり千早は無関心で、彼女のプロデューサーも本番後に注意していた筈。
「私、折角のお仕事だし、みんながいい雰囲気でやりたいなって思ってるから…それに如月さんもこれからの事もあると思って……だから言ったんです『それってアイドルとしてどうなの?』って……そしたら彼女が………」
そこで言葉はとぎれた。伊織はうつむき、膝の上に置かれた拳は、かすかに震える。静寂が事務室の喧噪を遠くから運んでくる。
「……伊織、続けて」
俺の言葉に呼応して、伊織は顔を上げる。瞳に涙を浮かべ、伊織は訴えた。
「『アイドルになんかなりたくないって』言ったんです! 私のトークは無駄どころか、歌う時間を縮めるだけだって! 私、悔しくって……」
瞳から涙がこぼれ、ほおを伝う。伊織は言葉に詰まり、手で顔を覆った。嗚咽こそ抑えているが、かすかに肩が震えていた。

「伊織……」

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posted by tlo at 17:24| ○○の仕事風

2008年08月10日

伊織と千早と蒼い鳥





>はじまり
posted by tlo at 00:00| ○○の仕事風

2008年07月30日

5

#公式の設定展開をどう料理するかは二次創作として腕の見せ所というか楽しみの一つだったりする。とりあえずは続報待ちかな。
−−−
「おはようございますプロデューサー」
「おはよう律子。予定してた仕事、キャンセルになって悪かったね」
「いえいえ。それよりもちょっとお伺いしたいことがあるんですけど、いいですか?」
「ん、何だろう」
「例えばですよ。例えば、伊織がよそに移籍するなんてことになったら、どうします?」
「絶対にないよ」
「絶対! それは大きく出ましたね」
「伊織は特別な人間には特別を求める。それこそ世界中を敵に回しても、伊織の味方であり続ける覚悟が要る。ある意味美希並に依存心は高いよ。だから俺がPである以上、それはあり得ない」
「うわぁ……」
「嘘。ごめん。ちょっとかっこつけすぎた」
「………で、彼女が移籍したらどうするんですか?」
「あの娘の激しく求め続ける性格は性急に結果を求める。それこそ社長にねじ込んで765プロに入ったんだ。手段は選ばないよ。彼女との信頼関係を築けずに、結果を出せる環境がどこかべつに得られるとしたら――伊織は躊躇しない」
「そういう事態に陥った時には、P失格ですね」
「少なくとも伊織のPとしてはそうだね」
「で、そうなったらどうするんです」
「……なあ、律子。俺どうしよう」
「……そんなこと言ってると、ホントに見限られますよ」

つづき
posted by tlo at 00:05| ある日の風景的な何か

2008年07月27日

「次の仕事、決まったの?」
「ああ、伊織メインで二つほどね」
「今度こそ、メインでしょうね」
「今度こそ、メインだよ」
「この間みたいだったら許さないわよ」
「企画書みればわかるよ。ほら」
「……『アイマスソート 1位水瀬伊織 2位如月千早……』?」
「あ、間違えた。企画書はこっちだ」
「……」
「どうした? 伊織」
「……ね、ねえ」
「何?」
「べ、別になんでもないわ。さっさとその企画書とやらをみせなさいよ」


彼女に愛を伝えるのにはちょっとコツがいる。


つづき
posted by tlo at 10:02| ある日の風景的な何か

3

「千早は春香と君のプロデューサーとどっちが好き?」
「え? あの…」
「例えば、の話だよ」
「例え話であっても、私は春香とプロデューサーを比べることはできません」
「うんそうだよね。好きという感情はいろいろな種類はあっても比べられるものじゃない」
「はい」
「けどね、『今この時』を共に過せるのはたった一人だ」
「……そう、ですね」
「時は有限で、体は一つしかない、まして俺は才能に恵まれているわけじゃない。優先順位をつけないと結局なにも、出来ずに終わる」
「優先順位をつけて仕事をこなす事と、たった一人を選ぶ事では意味合いが違うように思いますが」
「でも伊織はそれを求める。伊織は自分がオンリーワンであることを、『特別な人』には求めるんだ」
「……」
「独占欲が強すぎるって事にいつか気付くと思う。でも今は彼女の求めに応えてあげたい」
「それで専属Pになられたのですね」
「だから予定していた仕事も全部延期だ」
「よくわかりました」
「申し訳ないね」
「とてもよく納得できました」
「?」
「さっきから伊織がこっちを睨み付けているのは、そういう事なんですね」
「あはは…」

posted by tlo at 09:03| ある日の風景的な何か