2009年02月28日

俺と伊織のプロデュース13

「いやよ」
「何故だ?」
「変態監督のエロ映画になんかお断りよ」
「それが理由か?」
「そんな映画、ヒットするわけないわ」
「それは分からないだろう?」
「私がイヤっていってるの。理由はそれで十分よ!」
「あのなぁ、伊織……」

そっぽ背く伊織に、俺は説得を試みる。今日のミーティングのお題は「映画のカメラテストへの参加」の件だ。映画とは、いつか事務所に案内のメールが届いていた『Lo.li.ta.』の事で、伊織にとっては屈辱を味わされた「あの男」が監督する映画だ。そのカメラテストに出るという俺の提案に、伊織がイヤというのも無理はないだろう。

あの一夜から一週間が過ぎようとしていた。あの夜の翌朝こそ互いの醜態をさらしあっただけにどこか気恥ずかしい雰囲気だったが、その午後のミーティングではもうケンカ腰になっていた。活動の中心をテレビバラエティから移すと伝えると、伊織はこう噛みついてきたのだ。

『逃げるの?』

何から逃げるのか、俺は暗黙のうちに了解した。だがこれはテレビに出られない為の処置ではない。これから狙おうとするファン層にテレビというメディアが訴求力を失っている事を指摘し、企業のCM出稿が減っている事も付き添える。

『ファン層まで変えるの?』
『広げようと思う。これからはしっとりとした美しさも打ち出していく』
『そ、そう』

結局、なだめすかしてプロデュース方針の変更を納得させるのに半日かかったが、嫌なものはイヤだというのは伊織の良いところだ。言葉を尽くし、伊織を説得するのは確かに骨だ。だが意図を理解すれば伊織は自分なりに考えて動ける。それこそ蒼い鳥の一件のように、アドリブさえしてみせるのだ。

以来、ことある毎に伊織と俺は衝突している。数日は伊織の信頼を失ったのかと不安にもなったが、納得さえすれば伊織は指示に従ってくれた。伊織が言う「イヤ」というのは単純な拒絶でなく、話し相手の興味を引くための手段なのかもしれないとも考えた。時折彼女が見せる孤独の陰を思うとあながち間違いではない気もするが、今伊織が放っている「イヤ」は本気の「嫌」に違いなかった。

「これで主役を取れれば、今後の営業が楽になるんだ」

演技することに伊織は抵抗はないだろうが、仕事としての経験は無い。滑舌を良くする等の基礎訓練は今までのレッスンに取り入れていけば問題ないだろうが、これだけは実際に現場に立つしかない。だが、実績のない伊織に端役でも仕事が取れるかと言えば難しい。役者の世界もアイドルと同じで生存競争はあるのだ。実績としてこれだけ箔がつくものはあるまい。

「どうせ、外国のマイナー映画じゃないの」
「確かに、日本だったら単館上映程度になるかもな」
「だったら営業的に意味無いじゃない」
「そうとも限らない。この映画のプロデューサーは、アメリカメジャーにもコネを持ってる大物だ」
「そうなの?」

映画のプロデューサーは、投資家から金を集め、映画を作ることで資金を運用し、得た利益を還元するビジネスマンという側面を持つ。このプロデューサーの辣腕と慧眼は、過去に幾人もの映画監督をメジャーに押し上げている事で証明されていた。少なくとも海外では、それなりの話題をさらうことだろう。

「勝算はあるの?」
「あるよ」
「『勝算は君の美貌と才能だ』なんていわないわよね」
「それが一番大きいけどね」
「御機嫌取りはいいから、聞かせなさいよ」

伊織がノってきた。だがここでノせられかけている事に気づけば、伊織は反発するに違いない。伊織とのやりとりはポーカーゲームだ。俺はあくまで懸命に説得するそぶりを見せ、慎重にカードを切る。


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posted by tlo at 01:34| ○○の仕事風

2009年02月25日

俺と伊織のプロデュース12

「伊織ちゃん」
「……分からないの」

ぽつり、ぽつりと伊織はプロデューサーが言った言葉を紡ぐ。チャンスを掴めば成功する訳じゃない、それは理解できる。だが努力してやっと掴んだチャンスを横から盗られる現実で、それが常識だというこの業界で、どうやって生き抜いていけばいいというのか。

「『時代と寝る』ってプロデューサーさんが言ったの?」
「……ええ」
「分からないって、何が分からないの?」
「アイツ……」
「うん」
「アイツ……つぎつぎ男に私を抱かせて………」
「なんでそう思うの?」
「時代と寝るって、そういう事じゃないの?!」
「それが、分からないこと?」

伊織は小さく頷くと、そのまま俯いてしまう。思い詰めた横顔がテーブルのオレンジジュースを凝視する。小鳥が腰をずらして、伊織に寄り添うように座った。ぬくもりを近くに感じて伊織が顔を上げると、小鳥はほほえみかけた。

「私の思い出話聞いてもらえるかしら」


小鳥のデビューした当時、業界は某辣腕音楽プロデューサーによるアイドルで席巻されていた。彼の傘下にないアイドル達はテレビに出ることも叶わない。765プロ社長の肝煎りによりデビューした小鳥であったが、やはり不遇を託っていた。そんな時、小鳥は彼女に出逢った。

「私と同期デビューした子でね。やっぱり仕事がなくって、私と同じ事悩んでて、事務所は違ったけどすぐ仲良しになったの」

手売りのCDが売れ残ったり、先輩芸能人にいびられたり、ファンレターが届いたり、ライブが成功したり……同じ苦しみと喜びを分かち合いながら二人は互いの夢を語り合う仲になっていった。

「彼女、歌ったり踊ったりするのが好きで、それでみんなが喜んでくれるのがすごくうれしいんだって言っていた」
「やよいみたい」
「そうね、やよいちゃんや春香ちゃんみたいな子だった」
「そのアイドルがどうしたの?」

小鳥は視線を外し、窓の外をみやる。夜も眠らぬ都会の明かりに照らされて、空には星一つ見えない。

「彼女、その辣腕プロデューサーにプロデュースされることが決まったの。すごかったわ。出すシングルはミリオンセラー。アルバムはオリコン1位。その年の紅白にまで出場が決まった」
「すごいじゃない」
「そしてね、彼女に会ったの。仕事先でたまたま。彼女も私のこと覚えててくれてて、声をかけてくれたのね。ちょっと嬉しかったな……でもね」
「どうしたの?」

小鳥は、口をつぐむ。伊織は小鳥の横顔をのぞき見る。夜空に向けた視線は、さらに遠くを見るようだった。

「彼女、そのプロデューサーに紹介してくれるって言ったの」
「良い子じゃない。紹介してもらったの?」
「『裸になってベッドに寝るだけで良いの。簡単でしょ?』って」

彼女とそのプロデューサーが半ば愛人関係にあるというゴシップ記事を読んだことはあった。あること無いこと書き立てるのがゴシップだ。小鳥も眉唾ものの記事と思っていた。

「……で、どうしたの?」

おそるおそる尋ねる伊織に、小鳥は視線を戻し再び微笑んだ。

「怖くなって、すぐに社長に相談したわ」
「それで?」
「社長はね、こう言ってくれたの。『チャンスも掴めず去っていく人間は多い。だが、チャンス掴んだからって、それをものに出来るとは限らない』んだって」
「それって……」
「伊織ちゃんのプロデューサーさんも同じ事言ってるわね」

目を丸くする伊織に、小鳥は首をかしげて顔をほころばせる。

「でも、その子は成功したんでしょう? 小鳥は……」
「そうね、私は大成功とは言えなかった」
「じゃあダメじゃないの!」
「そうね……でも、これを見てくれる?」

小鳥は四つんばいになってラックまで這うと、一枚のディスクをDVDプレーヤーにセットする。テレビに映ったのは、若かりし日の小鳥の姿だった。


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posted by tlo at 03:20| ○○の仕事風

2009年02月23日

俺と伊織のプロデュース11

「――ですが、テレビ中心のプロデュースはいずれ限界と思います。少なくとも伊織はテレビ向きじゃありません。なにより近年のテレビの消費速度はあまりに速すぎます。お笑いとアイドルは半年で使い捨てです。私は、伊織をそんなサイクルに乗せたくはありません」

765プロの社長室。時刻は日付を回ろうとしている。社内に残っているのは二人だけ、社長と俺だ。伊織を小鳥さんの部屋に届け、会社に電話してみると思った通り社長は残っていた。アイドルが仕事をしている間、社長は決して退社しない。その日はあずささんが遅くまで収録をしてた。彼にとって、帰社したアイドルとプロデューサーを出迎えるのは仕事なのだろう。その分、時々朝礼に遅れてくることはあるのだが……。

俺は全てを報告した。ゴシップ記者からの情報、伊織が遭遇した現場、そして伊織が経験した「営業」も。社長は沈痛な面持ちで話を聞き、話し終えた俺をねぎらってくれた。だが話はそれで終わりじゃない。これからどうするかが問題だ。俺は社長に「談判」を持ちかけた。腰を浮かし、身を乗り出して訴える俺の言葉に、上座のソファーに座る社長は耳を傾けてくれた。

「プロデュース方針の変更については了承した。もともと君達プロデューサーに任せてある事だ。思うとおりにやってくれたまえ」

「談判」の内容は二つ。一つはプロデュース方針の変更だ。「プロジェクトアイマス」は次世代のアイドル像を探る765プロダクションの社運を賭けた計画だ。プロジェクトに集められたのは、11人のアイドルと10人のプロデューサー。プロジェクトではそれぞれのアイドルは、それぞれの得意分野での活動が計画されていた。例えば、美希はグラビア中心の活動を、千早はアーティスト寄りの活動をしている。やよいなどはライブ活動を中心にしていて、呼ばれれば商店街の売り出しにだって飛び出していくのだ。
そして伊織には「テレビタレント」が期待されていた。空気を読んで適切な切り返しをする才気は14歳の子供のものじゃない。事実、東京ローカル局からの番組レギュラーのオファーも数件あったのだ。だがテレビというメディアは真実を見透かしてしまう事がある。伊織の「猫かぶり」を視聴者は敏感に察知するのか、レギュラーはどれも長続きはしなかった。今回の件が無くとも、プロデュースは手詰まりになっていただろう。

「映画、舞台、ドラマ。確かに水瀬君の才能は、演技でこそ発揮されるものかもしれないな」

伊織の真価は「演技」にある。最初にそれに気づいたのは、伊織がアーティストのPVに出演したときだった。そこで伊織は、雪歩と共に神を下ろす巫女の役を見事に演じきる。そもそも猫かぶり自体が演技なのだ。テレビでは鼻につく才気も、舞台の上あるいはスクリーンでは「演技」として昇華されるに違いない。

「だがプロデュース期間の延長は認められない」
「お言葉ですが、たった一年の活動で何が出来るでしょう。それでは今のテレビ業界となんら変わらないではありませんか。着物姿でギターをかき鳴らしていた彼は今何処にいますか?ボンテージで腰を振り続けた彼は腰痛でお払い箱になりましたよ?俺は伊織を使い捨てにするつもりは――」
「私もない。だが『一発芸人』と呼ばれる彼らを卑下するつもりもない。彼らは例え一瞬でも、光り輝いたのだからね」

だがこの方針変更にはリスクが伴う。映画にしてもドラマにしても拘束時間が長いのだ。一年のプロデュースではトップアイドルは狙えないだろう。もう一つの談判の内容。それはプロデュース期間の延長だった。

「最初に君に伝えたとおり、一年で芽が出なければこの世界では通用しないと私は思っている。無理なもの引き留めるのは彼女たちの人生を破壊する事になろう。むしろ残酷なことだと思わないかね?」
「それも分かります。ですが伊織の才能は疑いようがありません。5年、いやせめて3年…」
「水瀬君を信じているのだね?」
「はい」

間髪入れずに答えた返事に社長は腕を組んだ。沈思する社長は眉をひそめる。社内に残っているのは二人。サーモスタットに反応したエアコンがうなり始めると、社長は深い溜息をついた。

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posted by tlo at 02:58| ○○の仕事風

2009年02月21日

伊織と俺のプロデュース10

もうもうと湯気の立ちこめるバスルームに、シャワーの激しい水温が響く。白い視界の向こうには、優美な曲線を描くシルエットが見え隠れする。熱い湯が肌をピンクに染める。湯は肌に弾かれ、まだ控えめな双丘の谷間からくびれた腰に流れ、脚を撫でるように伝っていく。

『君がそれも手段だというのなら、俺もそれを躊躇しない』

伊織はプロデューサーの告げた言葉を思い出す。躊躇しないという事はつまり、求められれば伊織の躰を差し出すという事だ。躰を差し出すということは……。伊織は胸に手をやる。近頃、手のひらには収まらなくなってきた乳房の奥で、心臓が高鳴る。耳の奥で響く早鐘は、熱いシャワーの所為だけじゃない。

『あの監督を落とせば一気に海外デビューを果たせる。君の言うとおり、これはチャンスだ』

確かにチャンスだ。だからこそ、あの時ホテルにまでついていったのだ。セレブアイドルなどと当て付けられて自棄になったのは事実でも、どこの馬の骨ともわからないテレビ番組のディレクターであれば躰を差し出すつもりは毛頭無かった。そう、一つの手段としてそれを選んだのだ。
伊織は、曇った鏡を拭う。そこには未成熟な14歳の少女が立っている。大人びていると言われても伊織はまだ大人ではない。面と向かって躰を売れと言われて、動揺しない訳がないのだ。だがしかし、もう子供じゃない。少なくともプロデューサーは大人として扱っていると伊織は考える。
少しは配慮しろと毒づく一方、子供扱いされるのは論外だ。この頃はその辺りの機微を見透かして、づけづけと正論をぶつけてくる。まったくもって憎たらしい。大体、いい歳して涙流してわんわんないて、10分も発ってない内に出てきたセリフとは思えない。いつものしたり顔でしゃあしゃあと……

「ったく、あの男はっ……」
「伊織ちゃんが男と……」
「そうよ、あの男と来たら」
「詳しく聞かせてくれるかしら」
「ええ、聞かせてやるわ……って何してるよ小鳥?!」

バスルームの扉から、小鳥が顔を覗かせていた。

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posted by tlo at 02:34| ○○の仕事風

2008年12月28日

伊織と俺のプロデュース9

全てを話し終えて、プロデューサーをのぞき見た。真っ青になっていた。あの監督とラブホテルに入って、スカートをめくったと言った時など死にそうな顔をしていた。

いい気味だ。

私が、この水瀬伊織が、あんな目に遭ったというのにこの男はうまそうにハンバーガーをほおばりポテトをかじっていやがった。警官に見とがめられ時に、この男の顔をみて少しでも安心した私が馬鹿だった。救いを求めて、相談した私が馬鹿だった。

この馬鹿は私を娼婦と一緒と宣ったのだ。

資本主義? マルクス? 男の身勝手? しゃあしゃあとご高説を垂れたしたり顔は、私のたったこの数時間の経験談で、木っ端微塵に崩れさった。

いい気味だ。

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これそっくりで笑ってしまうwwwww

このヘタレの次のセリフはきっとこうだ。
『本当か? 本当にしてないんだな?』
そしたらこう答えてやろう。
『…嘘……ねえ、妊娠検査………用意してくれない?』
そしたらまた死にそうな顔するに違いない。
『まじめに答えてくれ。今後のプロデュース方針に関わるんだ』
とか言ってくるかも知れない。そしたらこう言ってやろう。
『だったら確認すればいいじゃない。アンタのを挿入(いれ)れば一発で分かるわよ』
この根性無しがそんな事出来るわけがない。しばらくはこうしていたぶり続けてやる。
そしてそのうち本当にどこかの男と寝て仕事を取って………この馬鹿はお払い箱だ。

いい気味だ。
本当にいい気味だ……って、泣き始めた?!


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posted by tlo at 18:07| ○○の仕事風

2008年12月27日

2008年12月26日

伊織と俺のプロデュース7

「大丈夫か?」
「ひゃぅ」

泣きじゃくっていた所を急に声をかけられ、奇声があがる。顔を上げれば少女の姿は既に無く、そこにはひげ面の男が立っていた。着慣れた様子の正装のスーツ。片手にはハンディカム。

「まあ、泣き出すのも無理はないがね」

と、男はハンディカムを操作する。伊織は気づく。彼こそが目的の映画監督だった。

「ふむ、いい絵が撮れた」
「アンタ、アレを撮ってたの?!」
「ああ」
「私によこしなさい!」
「これをどうする?」
「マスコミに配ってやるのよ!」
「断る」
「なっ…アンタ、アレを許せるって言うの?!」
「別になんとも思わないが」
「別にって……!」
「あんなのは業界じゃ日常茶飯事で公然の秘密だ。君は知らなかったのか?」
「でも犯罪じゃない!」
「こういう所なんだよ。ここは」

男は悪びれもせずに伊織を諭す。子供に世間の常識を教える大人の態度だ。いままで自分の依って立っていた全てが崩れ去っていく。つまり、あの少女の方が正しいのだ。伊織は目眩によろける。

「大丈夫か?」
「離してっ」
「無理するな。ショックだったんだろ?」

小柄ながら頑丈な体躯が、倒れそうな伊織の体を支えた。

「君は間違っちゃいない。狂っているのはこの業界だ、俺も含めてな」
「……」
「君は正しい。でも、正しさだけで渡れる業界じゃない。ここで何かを得ようと思うなら、引き替えに多くのものを差し出す事になる」

抱きかかえられながら、伊織はその優しい声を聞く。優しくも、力強い声だった。こわばっていた体から力が抜けていく。体重を預けると、男は赤ん坊をあやすように背中をぽんぽんと叩いてくれた。

「落ち着いたか?」
「……ありがとう」
「率直に言えば、早くこんな所から離れた方が良い。君のような子が薄汚れていくのは見るに忍びない」
「……………私にアイドルをやめろっていうの?」
「ああ、そうだ」
「あんた狂っているんじゃなかったの?」
「狂っている。人のセックスを盗み撮りする程にな」
「狂人が説教するなんて、ホントにここは狂ってるわね」

伊織が胸に埋めていた顔を上げる。男を少女と目を合わせる。瞳から流れる涙は、彼女の気高さと可憐さを引き立てる宝石だ。

「私を抱きなさいよ」
「君は自分の言っていることが分かっているのか?」
「ええ、あなたに『営業』を持ちかけているのよ。監督さん」
「正気か?」
「この世界が狂っているなら――私も、狂うわ」

伊織から一歩離れ、少女の姿を見た男は息を呑んだ。まだ未成熟ではあるが、腰の線はもう女を主張している。彼女は咲き誇らんとする薔薇の蕾で、それを手折って散らすのは耐え難い悪魔の誘惑だ。先ほどまで抱きかかえていた腕に残る、少女の躰の柔らかさ。


「……俺の部屋に来るがいい」

posted by tlo at 22:51| ○○の仕事風

伊織と俺のプロデュース6

#時系列戻ります。18歳以下非推奨。


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posted by tlo at 22:17| ○○の仕事風

伊織と俺のプロデュース5

それは例えば「クラスのあこがれのあの子が援交していた」とかそういう類の、思春期に抱きがちな絶望感に近いかも知れない。あるいは「大事にしていた娘がどこぞの馬の骨に傷物にされた」とかの自分の事を棚に上げた父親の憤慨ともいえる。いずれにしても「少女はいずれ女になる」という一般論は、具体例になると一気に感情の色を帯びる。
アルタのモニタを見ながら、俺はそんな事をぼんやりと考えていた。モニタには伊織が出演するはずだった番組が映っている。そのアイドルは伊織と同じ歳のはずで、まだあどけなささえ残っていた。伊織だったらノリつっこみで完璧に返していていただろう司会者のネタフリに、おろおろする辺りは愛くるしささえ感じてしまう。

だが、この少女は。

あの店を出た後別の店で飲み直しても、全く酔えない自分を見つめるばかりだった。仕事が減っている原因は分かった。しかし、分かったところで対応のしようがない。耐えるしかないのか。いや伊織は耐えられまい。それより、この事を伊織が知ってしまったら……伊織がソレを持ちかけられたなら。

『僕の言うことを聞いたらゴールデンに出してあげるよ』

伊織は確かに潔癖だ。だが手段を選ばぬ現実主義者でもある。そう「少女はいずれ女になる」のだから、要はそれの捨て所だ。天秤が傾けば伊織は躊躇しない。だが、伊織は、躰をまさぐられながら涙を流すに違いないのだ。

「クソっ」

思考はいつもそこでとぎれ、スタートに戻る。こんな事を何遍も繰り返して、街をぐるぐると歩き続ける。熱いシャワーを浴びて一晩寝れば頭もすっきりするだろう。だが思考を整理し、感情を分類して今まで生きてきた。まして裏の世界にも足をつっこもうというのだ。今、錨を降ろさなければ漂流してしまうに違いない。だがしかし……

ぐうううう……

悩んでいても腹は減るのだ。もう5歳若ければ自己嫌悪のあげくに、世界を呪詛していたに違いない。だが腹が減っては戦は出来ぬという真理を、今の俺は身をもって知っている。若かりし日の自分が今の俺を見れば、堕落と糾弾するに違いなかろう。財布を開く。怒りにまかせて叩きつけてきた金額に後悔を覚え目の前にあるファーストフード店に入ろうとした、その時だった。

「・・・ちょっとなによ!」

雑踏に紛れて聞こえてくるその声に、俺は素早く反応していた。人混みを縫うように駆け抜けると、案の定そこにいたのは警官と押し問答になっている伊織だった。

「伊織!」
「プロデューサー!?」
「あ、すいません。うちの伊織が何か……」
「あなたは?」

人を観る警官特有の視線に、俺は名刺を差し出して見せる。警官はライトを取り出し名刺を確認する。

「何をしたんだ、伊織」
「ごめんなさい……プロデューサー」

今にも消え入りそうな声に怯える仕草。それは伊織がもつ48の猫かぶり技の一つ。伊織ぐらいの女の子が一人歓楽街にいれば、警官は声をかけるだろう。それ以上の意味が無いのだとしたら面倒はやっかいだ。

「すいません。仕事を終えて帰るところだったんですけど、ちょっと目を離した隙にはぐれてしまって」
「………」
「ダメだろ、明日も予定詰まっているんだから今日は帰って寝ないと持たないぞ」
「だって……お腹がへっちゃって」
「そこでハンバーガー買ってやるから。な?」
「……はい」

俺達の即興芝居に警官は、俺の身分証明を求めてきた。

「それは構いませんが……何か理由があるんですか?」
「いえいえ、事務的なものですので」

俺が差し出した運転免許証を警官は受け取ると、やはりライトでしげしげと確認する。「援助交際」している男と少女と、警官の目には映っているのだろう。行き交う通行人は遠慮無く好奇な目を向ける。だがこの街では珍しくもない光景なのか、彼らは立ち止まることなく通り過ぎていく。

ようやく警官が放免してくれた。伊織は腕にしがみついてくる、演技はまだ終わっていない。警官はそれとなく後をつけてくる。駆け抜けた道を戻ってファーストフード店に入った。0円のスマイルに迎えられて、俺はようやく人心地つく。だが、伊織はまだ腕を放そうとしなかった。

「大丈夫か伊織」
「……」
「なにか食べよう」

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posted by tlo at 21:56| ○○の仕事風

2008年12月19日

伊織と俺のプロデュース4

そのビルは一般人からみれば羨望の象徴であったろうが、伊織にしてみれば成り上がり者が積み上げたバベルの塔に過ぎない。だからその上階に住むという「メディアの風雲児」とやらも、どうという存在ではなかった。だが伊織はその男の主催するパーティーに出席している。
伊織の父親へは以前より、その男からパーティーへの招待があったという。だが水瀬グループは実業の比率が高く「虚業」とは縁が薄い。今まで丁重に断っていたのを伊織が出席するのは、件の監督がパーティーに出席すると聞きつけたからだ。
内容には抵抗があったが、映画出演そのものには興味があった。その後監督について調べてみれば国内ではほぼ無名なものの、プロデューサーが言うとおり海外では高い評価を受けている。海外での評価と下着姿なら悪い取引ではない。伊織は、その監督に会うつもりでいた。


『初めまして。お招きに預かり光栄ですわ』
『とんでもありません。『水瀬』のお嬢様にご出席いただけるとはこちらこそ光栄に存じます』

「風雲児」は思っていたより「社交慣れ」していた。が、それだけに、伊織は嫌悪感を禁じ得なかった。この男も自分を水瀬家の所属品としか見ていない。この男だけじゃない。このパーティーに出席している業界関係者は、「アイドル水瀬伊織」を見向きもしないくせに、「水瀬のお嬢様」にはへらへらとへつらってくるような連中だ。

「……やっぱり来るんじゃなかったわ」

壁の花になりながら、会場の様子を見やる。品のないパーティーだった。男達の興味は素っ気ない返事ばかり返す取り澄ましたお嬢様より、コンパニオン達に移っていた。年嵩は多分春香達と変わらないというのに、媚態で男を誘い、肩を抱かれ、投げ出した太ももをなでられ、胸を触られたと嬌声をあげ、けたけたと笑う。コスプレだと思っていたセーラー服やブレザーも彼女たちが通う学校の制服に違いない。

「新堂、監督が来たら携帯で呼びなさい」
「どちらに、いかれるのですか?」
「外の風に当たってくるわ」


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posted by tlo at 01:17| ○○の仕事風