2010年02月12日

伊織とやよいのサバイバル28

「待ちたまえ。話が急過ぎないかね?」
「アイドルアルティメットも終わって、区切りもつきましたし」

IUは伊織ちゃんの優勝で幕を閉じた。やよい相手に苦戦した伊織ちゃんだったけど、決勝戦はあっけないぐらいの楽勝だった。そもそもあの準決勝が、出来レースに納得できない事務所のアイドルが集められたものだった。だから決勝メンツは八百長話に乗っている事務所のアイドルで、勝つのがやよいでなくて伊織ちゃんになったという話なのだけれど。
社長室の外では、伊織ちゃんの優勝祝賀会が盛り上がってる。席を外した社長に、僕は辞意を伝えた。社長は驚いてるけど、僕はやよいのIUが終わった時点で会社を辞める心積もりでいた。

「結果として伊織ちゃんが勝ちましたけど、一連の騒動の責任を取りたいと思います」

社長はため息をついて、椅子に身を沈めた。僕がプロデューサーを下ろされなかったのは、IUを戦っているやよいや伊織ちゃんへの配慮に違いなかった。僕が言わなくても、いずれなんらかの処分があるのは違いない。けど机の前で処分を待つ僕に、社長は質問をしてきた。

「それは高槻くんも承知しているのかね?」
「……いえ。ただ、いずれにしても、やよいがIUに負けた時点でプロデュース期間はすぎてますから」
「それでは、私は認める事はできんな」
「何故…ですか?」
「そもそも今回の件は、君の独断専行にも原因があった。少なくとも高槻くんには、君がやろうとしていることを知らせるべきだった。違うかね?」

返事も出来ずに僕は立ちつくす。社長は身を乗り出し、内線をかけた。

「今、高槻君を呼び出す。彼女を納得させることが出来たら、君の辞職を認めよう」




「いやです」
「あのな、やよい聞いてくれへんか?」
「聞きますけど、いやです」

呼び出されたやよいは、社長に事情を聞くやいなや怒り出した。こんなやよいは初めてだ。面食らったけど、とにかくやよいに納得してもらわんと。

「僕な、今回のIUでみんなにいろいろ迷惑かけたやろ?」
「それがやめる理由ですか?」
「うん。責任取らなあかん」
「それなら、私だってお仕事で失敗してプロデューサーにいっぱい迷惑かけました」
「そら、駆け出しの頃は失敗は付きものやんか」
「プロデューサーだって、私が初めての担当だって言ってましたよね」
「うん、まあそうやけど……」
「じゃあ、失敗は付きものなんじゃないですか?」

ぐうの音も出ない正論だった。そうだった。やよいはものを知らない所があるけど、しっかりとものを考えて筋の通った事を言える子やった。

「やよいの失敗は、プロデューサーである僕の責任や。だけど僕の責任は、僕が取らなならんのや」
「………そうなんですか?」
「高槻君の失敗が君の責任であるなら、君の責任は君をプロデューサーに任命した私の責任だ」

俯いたやよいに、社長が助け船を出した。顔を上げたやよいと目が合う。まっすぐに見つめてくる瞳に、僕は怯む。

「やよい、わがまま言わんといい子にしてくれ…」
「わがままな言ってるのはプロデューサーです!」

とびきりの大きな声に、思わず僕は飛び跳ねた。やよいは目の色を変えて食ってかかってくる勢い。僕は直立不動、社長も目を丸くしている。

「プロデューサーは責任責任って言いますけど、私への責任は感じているんですか?」
「あ……いや、それはその」
「どうなんですか!?」
「いや、ごめん……」
「プロデューサーは私のプロデューサーなのに……私の事全然考えてないなんて……無責任です」

大きな声は次第に震えて、涙声になる。大きな瞳が揺れて、頬に滴が伝った。

「私…プロデューサー以外にわがままなんていいません………やめないでください」

涙を指でぬぐって顔を拭いてやる。止めどなく流れる涙が僕の手を濡らしてく。やよいは僕の手を取ると、自分の頬にぎゅっと押しつけた。

「やよい、すっかり泣き虫になったな」
「プロデューサーのせいです……責任取ってください……」
「……ああ、そうやな」
「約束してください」

ふと、視線を感じて顔を上げる。視線の先には、ドアの隙間から覗くアイドルたちがいた。目が合って慌てて逃げていく春香ちゃん。ばつが悪そうに目をそらす千早ちゃん。真はから笑いして、雪歩ちゃんは頭を何度も下げて走り去る。興味深げな亜美と真美は、律子に連れて行かれた。そして最後に残った伊織ちゃんが、睨んでる。すごい睨んでる。ああ、もう、そんなに睨まんでも分かっとるがな。やよいは上目遣いで、僕の返事を待っている。僕は一つ、深呼吸して、

返事を伝えた。


#次でおわりです。
posted by tlo at 22:26| ○○の仕事風