2010年01月14日

伊織とやよいのサバイバル25

「……怒ってもいいんですか?」
「ああ、ええで」
「泣いてもいいんですか?」
「当然や」
「でも、みんな悲しくなります」
「僕はならない。アイドルアルティメットだって辞退していい」
「そんな事したら、迷惑になります」
「社長も他のプロデューサーも、フォローしてくれるって。やよいは心配しないでええんや」

何かが胸を込み上げて、口をついて出そうになる。だけど口を開けたまま、それは言葉にならなくて。そんな私を、プロデューサーは優しく撫でてくれた。

「僕に任せろって言えればカッコええんやけどな」

涙がこぼれた。頭を掻いて笑うプロデューサーの姿がぐしゃぐしゃになる。

「すいません……私……私!」

プロデューサーは黙って頭をなで続けてくれた。私は泣いて泣いて、泣き続けた。暖かい大きな手に包まれるみたいで、つっかえていたものが溶けていくみたいだった。

「みんなによろこんで欲しいから、アイドルになったんじゃないんです……」

いつかプロデューサーにもお話しした事はウソじゃない。けど、本当は違っていた。アイドルアルティメットに出て、大きなステージに立って私は気づいた。全力で歌って踊って、頭がぐあーってなって真っ白になった後に、ファンの人から歓声がわくあの瞬間に。

「気持ちいいんです。すごく楽しいんです。私……」

そうだ。ずるしてるのも、心の底ではよろこんでいたんだ。だって、私はもっと歌っていたいから、もっと踊っていたいから。

「私、自分の為にアイドルになったんです」
そんな当たり前のことを、やよいは涙ながらに訴えた。そんな当たり前なことに、この子は罪悪感を持っていた。やよいの事や。家があんななのに芸能界に飛び込むのはよっぽど考えたに違いない。それでも、やよいはアイドルになることを「選んだ」んだった。
やよいは元気で明るくていい子とみんなが言う。けどそんな言葉が、やよいを縛り付けていた。

『やよいの泣いてる顔なんか見たくない』
『プロだったら我慢せい』

やよいに投げかけた自分の言葉が、頭の中でこだまする。歯を食いしばって、喉まで出てくる謝罪の言葉を押しとどめる。だけど涙が流れるのを、僕は止めることは出来なかった。

「やよい!」

やよいを抱きしめる。しゃくり上げて、僕の名前を呼びながら、やよいは小さい肩を震わせる。

「ぷろでゅーさー…私、勝ちたいです……勝ちたいです!」



posted by tlo at 21:21| ○○の仕事風