2010年01月06日

伊織とやよいのサバイバル24

「あのな、やよい。聞いて欲しいんや」

渡された封筒から、手紙を取り出す。プリキュアの可愛い便せんには、余りきれいじゃないけれど丁寧に字が書かれていた。きっと小さい子が書いた、ファンレターだ。

『やよいちゃんへ
 テレビでいつもおうえんしてます。
 この間、やよいちゃんの家の事聞いてびっくりしました。
 私は、お母さんが家計が苦しいってピアノ教室へ通えなくなっちゃいました。
 だけど、やよいちゃんみたいにがんばろうって思います。
 いつかやよいちゃんの歌をひけるようになりたいな』

「俺な、思うたんやけどな」

プロデューサーは目を伏せて、口をもごもごさせる。網の上のお肉の端っこがまくれて、ちりちりと焦げていく。私は、プロデューサーが続きを言うのを待つ。

「やよいは、やよいなんやって」
「はい、そうです」
「や、そうなんやけどな」

じゅう

プロデューサーは唸りながら髪をかきむしる。私は焼けたお肉をひっくり返す。

「やよいはアイドルとか貧乏とかそんな前置きみたいのは関係なくて、ただありのままのやよいが一番なんや」
「ありのまま…?」

プロデューサーはもう一通ファンレターを見せてくれた。お花の模様の奇麗な便せんに書かれたファンレター。お腹に赤ちゃんがいるっていう女の人が、赤ちゃんを私みたいな元気で明るい子に育てたいって。

「やよいの歌を聴いて、赤ちゃんがお腹を蹴るんやて」
「私そんなすごくないです」
「すごいとか偉いとかそんなんやなくてな……」
「みんな私のこと知らないんです! だって、私!」
「いや、あのな、そういうのも含めてやな…」


「……プロデューサーは知らないんです」


言って私は、それが言っちゃいけない事だったのに気づく。プロデューサーの表情が凍り付いて、私はうつむく。私が私を隠していた事に、プロデューサーはきっと傷ついたに違いない。

「……すいません」
消え入りそうなやよいの声に、僕の胸はぐしゃぐしゃに潰される。やよいに余計な苦労を背負せたんは、この僕だ。やよいをここまで追い込んだんは、この僕だ。謝れたらどれほど楽になるだろう。だけどやよいは僕を許すどころか最初から悪いとも思って無くて、だけどやっぱり悩みはあって、それでも前に前に進んで行くに違いない。そして表も裏もそんなみんなをひっくるめて在るやよいの姿が、たくさんの人の心を掴んでいる。赤貧アイドルのシンデレラストーリーなんぞ後付は、最初から要らんかったのだ。プロデューサー失格や。

「聞いてんか、やよい」

だけど、僕はやり直したい。やよいを正々堂々と、トップアイドルとしてドームに送り込みたい。いや、そんな事より……

「僕、やよいの事応援してやりたいんや」

やよいの顔が上がって、目が合う。視線を外そうとしたやよいに、僕は微笑んでみせる。やよいみたいには、うまく行かんけど。

「元気なやよいだけやない、泣いてるやよいも、みんなみんな応援してやりたい」
「だけど、プロだったら我慢しなくちゃって、プロデューサーが」
「うん、我慢しなくちゃいけない時もある。だけどどうしても辛かったら、我慢しなくていい。泣いたって、怒ったってええんや」

焼肉屋の個室で二人。店員のかけ声が遠くに聞こえる。僕は焦げ臭くなった肉をほかす。煙が晴れて、食い入るように見詰める女の子の顔。僕はやよいに伝えた。

「僕は、ありのままのやよいが好きなんやから」
posted by tlo at 03:36| ○○の仕事風