2009年06月29日

伊織とやよいのサバイバル6

#アイドルアルティメット長いので以下IU。特別ルールは俺設定。

結局、俺がやよいのオーデションを見たのは事務所に戻ってからだった。一度ワンセグで見たというのに伊織は、一緒に見て解説までしてくれた。口調が興奮気味になるのも無理はない。やよいはオーデションで見事な逆転勝利を収めたのだった。

「ここよ、ここ! ここのステップ、スゴイと思わない!?」
「あ、ああそうだな」
「なによ、その返事は……って、ほら! ここも! ターンしてポーズ!」
「よく、姿勢が崩れないな……あれ、5位と6位の子消えちゃったぞ」
「足切りがあるって、最初に説明したじゃない」

IUには特別ルールが導入されていた。「足切り」はその一つだ。通常3次審査まであるオーデションだが、IUでは審査が進むにつれ下位の二人は足切りされる。3次審査にまで進むと、アイドルは二人までに絞られることになる。今、画面では残ったのアイドルが「一騎打ち」を始めた。

「あ、これが視聴者投票か」
「見てなさい。ここからよ」

やよいの相手は佐野美心というアイドルで、伊織もオーデションでは煮え湯を飲まされたり飲ませたりしていた強敵だ。通常のオーデションならやよいに勝ち目はなかったはず。だがしかし、3次審査から導入される特別ルール「視聴者投票」が様相を一変させる。

「視聴者投票圧倒的じゃないか。佐野美心だってメジャーなんだぞ」
「やよいって、元気をくれるの。だから応援したくなるんだわ」

あれだけ特訓したというのにやよいはカメラを意識する事なく、ただ全力に踊り歌っている。だがその姿が視聴者の心を打つのだろう。第二次審査までは差を開けられていた得点も、視聴者投票でみるみる縮まりついに逆転。そのままダブルスコアの大差で、やよいは佐野美心に圧勝したのだった。

「大金星だな」
「そうね。佐野美心も出来は悪くなかった」
「このルールってやよい向きなのかもしれないな」

やよいはライブに特化した「アピール」を繰り返していた。それはスタジオに籠もってレッスンを受けていただけでは身に付くこと無い、経験がなし得る技だ。もっとも、伊織や他のアイドルだってそれは身につけてはいる。やよいが違ったのはその引き出しの広さだ。普通のアイドルだったら3回もすればネタが尽きる所を、やよいは両手では数え切れないアピールを見せつけた。やよいが勝利を収めた最大の理由はそこだろう。

と、事務所に大きな拍手が巻き起こった。そして歓声。拍手する人達の視線の先には、事務所の入り口で目をぱちくりさせるやよいの姿があった。凱旋である。

「おめでとー! やよいちゃん!」
「あ、はい! ありがとうございます!」
「おめでとう! よかったよ!」
「はい! ありがとうございます!」
「よく頑張ったね」
「はい社長。私、がんばりました!」
「ちょっとアンタ達、なに盛り上がってるのよ。まだ一回戦勝っただけなのよ」

祝福の輪に伊織が水を差す。だが、やよいに大きな笑顔が咲いた。これが伊織流の祝福と分かるのだろう。

「次もがんばるね!伊織ちゃん」
「あったりまえじゃない。今日も特訓よ!」

伊織のかけ声に、やよいも右腕を突き出して応えた。いつの間にかやよいの周りには人の輪ができていた。次々に送られる祝福に、やよいは深々と頭を下げる。

「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「やよいだったら当然じゃない」

その隣で何故か伊織も祝福に応えている。誇らしげに胸を張り、無防備に笑う。自分が合格した時にも見せないその表情に驚く。

同じ日に事務所に入り、一緒にデビューして、しばらくは活動を共にした二人だ。活動開始直後、俺でさえ手を焼いていた伊織も、やよいの前では妙に素直だった。担当プロデューサーに対してさえ遠慮がちだったやよいも、伊織の前では屈託無く笑っていた。あれからそれぞれ活動の場所を変え、それぞれに成長しているが、二人の笑顔はあの時と変わらない。

これからも変わらないのだろう、きっと。
posted by tlo at 23:47| ○○の仕事風