2008年12月28日

伊織と俺のプロデュース9

全てを話し終えて、プロデューサーをのぞき見た。真っ青になっていた。あの監督とラブホテルに入って、スカートをめくったと言った時など死にそうな顔をしていた。

いい気味だ。

私が、この水瀬伊織が、あんな目に遭ったというのにこの男はうまそうにハンバーガーをほおばりポテトをかじっていやがった。警官に見とがめられ時に、この男の顔をみて少しでも安心した私が馬鹿だった。救いを求めて、相談した私が馬鹿だった。

この馬鹿は私を娼婦と一緒と宣ったのだ。

資本主義? マルクス? 男の身勝手? しゃあしゃあとご高説を垂れたしたり顔は、私のたったこの数時間の経験談で、木っ端微塵に崩れさった。

いい気味だ。

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これそっくりで笑ってしまうwwwww

このヘタレの次のセリフはきっとこうだ。
『本当か? 本当にしてないんだな?』
そしたらこう答えてやろう。
『…嘘……ねえ、妊娠検査………用意してくれない?』
そしたらまた死にそうな顔するに違いない。
『まじめに答えてくれ。今後のプロデュース方針に関わるんだ』
とか言ってくるかも知れない。そしたらこう言ってやろう。
『だったら確認すればいいじゃない。アンタのを挿入(いれ)れば一発で分かるわよ』
この根性無しがそんな事出来るわけがない。しばらくはこうしていたぶり続けてやる。
そしてそのうち本当にどこかの男と寝て仕事を取って………この馬鹿はお払い箱だ。

いい気味だ。
本当にいい気味だ……って、泣き始めた?!



「伊織…ゴメン」

ふん、今更謝ったって遅いわ。アンタも私を裏切ったんだ。私は娼婦なんでしょ? だったらこれから、男とやりまくってやる。

「やっと分かったんだ。俺は伊織のプロデューサーだって」
「はぁ?」
「俺は怖かったんだ。男の腹の下で、君がこの世界の真実を知ってしまったらどうなるか……壊れてしまうんじゃないかって……でも、君は処女を失ってもまだ、伊織だった」
「やってないって言ったでしょ! アンタ話聞いてる?!」
「でも君は、知ってしまったんだろ? 芸能界がきれい事じゃ済まないという言葉の『本当の意味』を」
「ええ、そうよ」
「そして君は、その現実を受け入れて、男に躰を差し出したんだ」
「その通りよ!」
「それでも君は、失った以上のものをもぎ取ろうともがいている」
「当たり前じゃない! この躰の代償よ!! 映画の主役程度じゃ飽き足らないわ!!!」
「その強さと、誇りと、気高さを失わない限り……君は娼婦じゃない」
「……!」


「君は君。『水瀬伊織』だ」


そんな当たり前のこと言って、コイツは声を上げて泣き始めた。いつも取り澄まして、毅然と正論を並べ立てるあのバカが、悔し涙を流している。

「畜生っ! お前はこんなにいい女なのにっ! 俺は……」

情けない男だ。パパは何があろうと絶対に泣かない男で、兄達は男が女の前で泣くなんて女々しいと考えるような人種だった。全く情けない男だ。

「難しい事じゃないんだ……俺はお前をプロデュースしたいんだ……それだけだったんだ」

ああ…あぁ……大の大人がぐしゃぐしゃになって、鼻水まで垂らしてみっともない。14歳の小娘に本気になっちゃって………全く………。

「お前を世界一の女にしてやりたい……それだけなんだ!」
「誓いなさい! その言葉!!」

それでも、上辺だけ取り繕って保身を計る奴らよりはマシだ。上から目線で世間のジョーシキをかざすより遥かにいい。他人面して一般論を唱えるよりかずっといい。

「世界一といったわね!!」

私はいつだって本気だ。誰も冗談としか取りあわなかった。精々、大言壮語としか思わないその言葉を、コイツは本気で信じていた。コイツは本気で私を信じていた。

「誓いなさい! その言葉を! 私を世界一の女にすると!!」

私の言葉を理解して、呆然としていた顔がようやく締まる。いつものマヌケ顔も、こうして見ると悪くはない。プロデューサーは跪き、差し出した私の右手を恭しく受け取って、

唇で、触れた。


「あのーすいません。そろそろ閉店にしたいのですけど」
『うわぁ!』

でもやっぱり、ハンバーガー屋の3階じゃ様にならなくて。
自叙伝にはどこかの王宮って書こうと、私は思った。

posted by tlo at 18:07| ○○の仕事風