2008年12月08日

伊織と俺のプロデュース1

「セレドル水瀬伊織のアイドルごっこ」
「765プロで売り出し中のアイドル、水瀬伊織ちゃんの事はご存じだろうか。知ってるとしたらあなたはよほどのアイドルマニアか、あるいは『上流階級』の方に違いない。そう、彼女は正真正銘あの水瀬財閥の末娘なのだ。そんな彼女がなぜ芸能界に入ったのだろう。とあるTV局のADはこう話してくれた。『あの子、芸能界でちやほやされたいだけなんだと思います。お嬢様気質が抜けないというか、何か勘違いしてるんじゃないですかね。私達ADを小間使い同然に扱いますし、怒ってる業界人は多いですよ』……」

俺は記事の途中でその雑誌を机に放り投げた。その雑誌はゴシップ週刊誌で記事の信憑性は殆ど無い。だが、アイドルはイメージを売る商売で実態が無いだけにゴシップの存在自体が致命的になる場合がある。さらに、今回の記事については妙なリアリティがあるというか俺について言えば身に覚えのあることばかりというか……

ばたん!

大きな音を立ててドアが蹴り開かれた。そこには仁王立ちの伊織の姿。片手には俺がさっきまで読んでいたゴシップ週刊誌が握られている。俺は、頭を抱えた。

「ちょっと、アンタ! なんでこの記事止められなかったのよ!」

伊織は大声上げ、事務所をズカズカと俺の方に歩み寄って来る。大きな溜息をつく俺に、伊織は胸ぐらをつかみ詰め寄った。

「こんな嘘っぱちな記事差し止められなかったの!?」
「記事の情報は掴めなかったんだ。写真も載らない記事だったからね」

実際この記事の扱いはそれほど大きくはない。伊織は普通に雑誌に載ってもまだ見開きは取れない現状だ。ゴシップ記事を載せたところで誰も喜ばないだろう。だが、俺達はこの記事を書いた人間を知っている。

「じゃあ、アイツの事なんとかしなさいよ!」
「…ああ」

先日の事だった。伊織と共に挑んだオーデションだったが、そこにいたのは蒼々たるメンツであった。覇王エンジェル、佐野美心、サイレントスノー……。もともと無理を押して全国ネットを狙ったオーデションだったが、祭典オーデションでもあり得ないメンツである。結果は惨敗。しかもその様子をたまたまそこにいたゴシップ記者に見られてしまった。

『こいつは面白い。しばらく密着させていただきますぜ……』

以降ゴシップ雑誌に記事が載り始め、その影響かどうかは分からないが伊織の仕事は減少ぎみだ。特に伊織を「セレドル」と褒め殺しにする記事が痛かった。伊織はまぎれもない「セレブ」で、この不況のご時世庶民の怨嗟の的になりやすい。だがそれを逆手にとって、徹底的にいじられ笑いものにされるか、あるいは庶民的な親しみやすい面を見せていけば「セレドル」という肩書きは武器にはなるだろう。だが伊織は良くも悪くも気位が高く、生来の大物だ。そういうプロデュースはあり得なかった。

「今は耐えよう。そのうち飽きて別の標的に移るさ」
「耐えるって何消極的なこと言ってるのよ! 名誉毀損で訴えなさいよ!」
「春香にもついたことがあるそうなんだけど、一ヶ月も経たないうちに飽きたらしいよ」
「きーっっっ! アンタ、悔しくないの?! こんな嘘八百並べ立てられて」
「……嘘ばかりでもないからなぁ」
「なんですって?」
「いや、悔しいさ。でもこの悔しさは仕事で見返してやろう。ほら、今日はリハーサルがあったろ」
「………分かったわ。でも、一ヶ月経ってまだ密着していたら…」
「ああ、分かってる。どんな手段にでも訴えるよ……え? 何ですか小鳥さん」
「電話ですよ。TV局から」

小鳥さんから電話が転送される、そこは今日の仕事先のTV局だ。直前になって時間の変更でもかかったのだろうか。俺は受話器を取る。

「もしもし……はい。はい……。………え? 何ですって?!」

posted by tlo at 20:51| ○○の仕事風