2008年08月11日

伊織と千早と蒼い鳥1

#時なんとかP風のコラボ用SS。低ランク時の事件と思いねえ

「大人びていても、彼女たちは幼い。だからこそ、君達にはしっかりしてもらわなければならない。わかるだろう?」
「……」
「……」
仕事先のTV局で掴み合いを演じた二人のプロデューサーが社長の訓示を受けている。一人は俺、一人は千早担当のPだ。事の発端は「千早が伊織を突き飛ばした事」。もっともそれは俺の言い分で、彼に言わせれば「伊織が千早に掴みかかった事」となる。そもそもの発端を探ろうとはしたのだが、互いが担当のアイドルをかばえば相手を責める事になる。質問が詰問になり言い争いになるのに時間は要らなかった。掴み合いになったのは――その日が暑かったという事にしておこう。そういえばTV局のエアコンの効きも悪かった気がする。
真相は楽屋で二人っきりだった当事者にしか分からず、その二人、伊織と千早は別室で小鳥さんに「事情聴取」を受けている。

「失礼します」
小鳥さんに付き添われて、伊織と千早が社長室に入ってきた。神妙な顔をしているかと思えば、二人とも不満げな顔を隠そうともしない。プロデューサーは二人、溜息をつく。
「ごめなさい」
「申し訳ありませんでした」
「プロデューサーには謝ったかね?」
社長に見据えられた二人はさすがに気まずい顔になって、俺たちに頭を下げた。

「じゃあ、伊織ちゃん千早ちゃん。みんなに話して」
「私……如月さんに注意したんです。私が司会の方とトークしてる間、如月さんは、その…仏頂面でよそ向いてました」
小鳥さんに促されて口を開いたのは伊織だった。確かに伊織の言うとおり千早は無関心で、彼女のプロデューサーも本番後に注意していた筈。
「私、折角のお仕事だし、みんながいい雰囲気でやりたいなって思ってるから…それに如月さんもこれからの事もあると思って……だから言ったんです『それってアイドルとしてどうなの?』って……そしたら彼女が………」
そこで言葉はとぎれた。伊織はうつむき、膝の上に置かれた拳は、かすかに震える。静寂が事務室の喧噪を遠くから運んでくる。
「……伊織、続けて」
俺の言葉に呼応して、伊織は顔を上げる。瞳に涙を浮かべ、伊織は訴えた。
「『アイドルになんかなりたくないって』言ったんです! 私のトークは無駄どころか、歌う時間を縮めるだけだって! 私、悔しくって……」
瞳から涙がこぼれ、ほおを伝う。伊織は言葉に詰まり、手で顔を覆った。嗚咽こそ抑えているが、かすかに肩が震えていた。

「伊織……」


名演技だった。
『話を促せろ』と目配せして合図してくるまで俺も気づかなかった。というか、ここに至りまだ『作る』とかどんだけ図太いんだと呆れるのを通り越して感心してしまう。お前、大女優になれるよ。


「ええ、言いました。私はアイドルになる為に、ここにいるわけじゃありません」


千早が『宣言』した。社長を前にしてそれを堂々と言い放つ千早もどれだけ大物なんだと、驚愕を通り過ぎて畏敬の念を禁じ得ない。そして隣で頭を抱えている彼女のプロデューサーには本当に同情してしまう。
「私が欲しいのは、私が私の歌を歌える場所です。それを彼女は、『今時歌なんか誰も聞いちゃいない』と。私程度の歌手だったらざらにいて、私の蒼い鳥なら、自分でも簡単に歌えると」


『アイドルなんか』
『歌なんか』

それは二人のプライドに触る言葉で、正に逆鱗だ。ようやくケンカの理由が分かったが、決着をつけるのは至難。いっそ放っておいた方がいいかとも思った、その時だった。

「ふむ。では二人で『蒼い鳥』を歌ってもらうのはどうだろう」
「「「「は?」」」」
「小鳥君、確かそんなオファーが無かったかね?」
「既存曲を8ビットサウンドでリミックス、というお話でしょうか?」
「おお、それだそれだ。水瀬君が蒼い鳥を歌えるというなら好都合。如月君にもいい刺激になるのでは無いかな?」
「……それが今回の件の処分というのなら、私は甘んじて受けます」
「ちょっと千早! 私と歌うのが処分だっていうの!?」
「違って?」
「勘違いしないように、これは仕事だ。では、頼んだよ」
アポがあると言って、社長はそのまま出かけていってしまった。残されたプロデューサー達は急転直下の展開にただ呆然とするばかり。
「何ですって! もう一回言ってみなさいよ!」
「あなたのような人と一緒に歌うのは、こっちのペースまで崩されかねないわ」
「私の歌がヘタだとでも言うの?!」
「ああ…いっそ最初からレベルをあわせてしまえば……」
「いまに見てなさい! 目にもの見せてくれるわ!!」

とりあえず俺たちの最初の仕事は、二人を引き離すことだった。この先が思いやられて俺は、深い溜息をついた。
posted by tlo at 17:24| ○○の仕事風